

精神科医、和田秀樹こころと体のクリニック院長
和田 秀樹(わだ ひでき)さんの著書
『70歳が老化の分かれ道』から
実践していきたい 「幸齢者mind」をお届けします。
目次
1 70代の生活で気をつけるべき2つのポイント

80代になっても元気でいるためには、
70代の生活で気をつけるべき2つのポイントがあります。
それは、活動意欲を維持するということと、
運動機能を維持するということの2つです。
病気を患って、急に老け込むということがありますが、
そうでない場合、老化は意欲の低下によって加速します。
何事にも関心が持てない。
体を動かすのがおっくうだ、
人にも会いたくないし、外にも出たくない、
といった不活発な傾向が、70代ともなると自然に強まってきます。
この意欲の低下を防がないと、日常の活動レベルはどんどん落ちていき、
運動機能も脳機能も一気に老け込んでいくことになるのです。
だから、70代になっても意欲レベルをなるべく維持することが、
元気でいるためには必要です。
また、運動機能においても、
70代のまだ身体の動く時期にどのように過ごすかで、
80代以降の機能が決まってくると言えます。
70代に、自分で意識して、適切な運動を心がけることが重要となってくるのです。

2 肉を食べることが意欲低下の抑止に働く

それでは、具体的にどのようなことをしたらいいのでしょうか。
まず、意欲の低下を防ぐ意味で、みなさんにお勧めしたいのは、
「肉を食べる」ということです。
高齢になると、肉を控えた野菜中心の食事が身体にいいと考えている人も多いですが、それは間違っています。
実際、現役のころと比べ、かなりあっさりした食事を毎日採っている人もいます。
そういった事情もあってか、実は、70歳以上の日本人の5人に1人が、
タンパク質不足だと言われています。
日本人の食生活も、欧米化してきたと言われていますが、
それでも、1日80gほどしか肉を食べていません。
一方、アメリカ人は、300gほど食べます。
アメリカ人ほど食べろとは言いませんが、
まだまだ、日本人には肉が不足しているのです。
そしてその傾向は、高齢者ほど強くなります。
歳をとると、意欲レベルが低下してくる理由にはいくつかありますが、
そのひとつが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少です。
セロトニンは別名「幸せ物質」とも言われ、
人に幸福感をもたらすのです。
何気ない瞬間に「ああ、幸せだなあ」と感じるときがありますが、
そのような感情をもたらす物質です。
このセロトニンが減少してくると、日々の幸福感は薄れ、
はつらつとした感情や若々しさ、活動する意欲が低下してしまいます。
気分が沈んだり、イライラしたり、感情が不安定になり、
うつ病のリスクも高まってきます。
このセロトニンは、年齢とともに次第に減少していくので、
高齢になればなるほど、意欲も低下し、うつ病になる人も増えるのです。
しかし、セロトニンの減少には、高齢になっても
生活習慣を改善することで対抗することができます。
その最たるものが、肉を食べることです。
セロトニンの材料となるのが、トリプトファンというアミノ酸ですが、
それが多く含まれているのが肉なのです。
肉を積極的にとることで、セロトニンの生成が促進され、
意欲低下の抑止に働くのです。
また、肉には、コレステロールもたくさん含まれています。
コレステロールは動脈硬化を促進し、
心筋梗塞のリスクになるという理由から、悪者として見られていますが、
日本の高齢者にとって必ずしも、忌避すべきものではありません。
心疾患が死因のトップであるアメリカであれば、
コレステロールが悪者とみられるのもわかりますが、
日本では、心筋梗塞の10倍の人がガンで亡くなるという疾病構造の違いがあり、心疾患で亡くなる人はOECD諸国の中でも格段に少ないのです。
動脈硬化を気にするよりも、コレステロールを減らすことによってもたらされる男性ホルモンの減少の方を恐れるべきです。
男性ホルモンの中でも特にテストステロンは「意欲」と関係しています。
性機能の面だけでなく、他者への関心や集中力などを司っています。
男性ホルモンが減少すると、活動意欲が低下して、
元気のない老人になってしまうのです。
ついでに言うと、記憶力も低下します。
しかし、肉を食べ、コレステロールをよくとっていれば、
男性ホルモンの低下にも対抗することができます。
さらには、セロトニンを脳に運ぶ役割も、
コレステロールが果たしてくれると言われています。
つまり、肉を食べることは、セロトニンと男性ホルモンの生成を促成し、
人の「意欲」を高め、活動レベルを維持することに大変効果的なのです。
肉が嫌いであったり、体調の問題で食べられないのなら無理をすることはありませんが、
健康のために節制して肉食を遠ざけているのであれば、
そのようなことは、今日からやめることをお勧めします。
日本の高齢者の食生活を見ていると、
自ら進んで「しょぼくれた老人」になろうとしているように、
私には思えてしまいます。
80歳のときに3度目のエベレスト登頂に成功した、
プロスキーヤーの三浦雄一郎さんは、
80歳を過ぎても、500gのステーキを平らげているそうです。
特殊な例ではありますが、高齢になっても、
アスリートとしての能力を維持できている理由のひとつに、
肉を食べる習慣があるのだと、私は思います。
3 今日の金言 和田 秀樹(わだ ひでき)

高齢者に仲間入りすると、肉を控えた野菜中心の食事が身体にいいと
考えている人が多いと思います。
しかし、肉を積極的にとることで、セロトニンの生成が促進され、
意欲低下の抑止に働く、という学びから、
妻にお願いして、肉を食べる機会を少し増やしてもらって、
意欲レベルをなるべく維持していきたいと思います。
「ありがとう、お先にね」と言って、
静かに、今世を去ることがオザビエル(私)の理想です。
それまでは、できる限り元気でいたいと思います。